おばあさんへ

おばあさんへ

ずっと・・・

巻き戻したい時間

僕が子供の時に一番優しかった人・・・それは祖母でした。

戦後の混乱期、祖母は馬車馬のように突き進む祖父を陰で支えました。

有り余るパワーをどこにぶつけていいのかもわからず、とにかく突き進む祖父・・・

どちらかといえば社交的で、物事にあまり拘らないタイプの祖母・・・

その相性は正直、あまりいいものではなかったように思えます。

それでもどこでどう間違えたのか・・・数奇な運命の悪戯か・・・結ばれた二人。

その混乱期をくぐり抜けてきた祖母の人生は苦労の連続でした。

生まれつき運が強かった祖父は、大阪のある占い師の鑑定を待っている間にそこで商売の神様に出会います。

祖父のバイタリティーを買った商売の神様は、祖父と二人三脚で新製品を関西一円に広げていくのです。

ただ・・・馬車馬のように突っ走る祖父のエネルギーは確実に家庭の中に歪みを生み出しました・・・。

祖父を支えてきたものの耐えきれず何度も逃げ出した祖母を、祖父は鬼の形相で無理やり家に連れ戻したのです。

もともとは水泳と映画が好きで明るく社交的な祖母・・・祖父との一生はドラマティックでありながらも我慢の連続でした。

そんな人生も後半を迎え、これからはやっとゆっくりとできると思った矢先・・・祖母は胃がんと診断されました。

そして、高齢になってから入退院を繰り返すうちに、祖母の「記憶の時系列の糸」がどんどん消えていく・・・

やがて祖母と祖父は施設に入りますが、それからは家族内の事情があり、僕はあまり祖母に会いに行かなくなりました。

祖父のエネルギーが生み出した歪みは解消しきってはいなかったのです。

自分にもできることがあったのではと思いながらも、家族内のエゴのぶつかり合いを見るうちに、辟易してしまい素直に動けない自分もいました。

そのように祖母に会わなくなって、2年経ったある日・・・

僕は用事があって施設に向かいました。

車椅子に押されて出てきた祖母は、僕が誰なのかはわかるようですが、ずっと施設で寝たきりだったにもかかわらず「ここのところ仕事で忙しかった」と言い出す始末・・・

会わない間に無情にも時間が祖母の記憶を押し流していました。

わかっているのかわかっていないのかはっきりしない表情の祖母を傍目に用事を済ませた僕は・・・

椅子から立ち上がろうとした時にふと思い立って祖母の手を握りました。

手を握った瞬間に、祖母から一気に感情の波が僕に押し寄せてきました・・・

そして、急に目に大粒の涙を溜めて、周囲の目もはばからず号泣する祖母・・・

車椅子を押されて部屋に戻るまでずっと泣き続けていました。

それから2週間経った深夜・・・祖母は静かに別の世界へと旅立っていきました。

僕はあなたが僕に本当に優しくしてくれたことを忘れません。

何かができたからとかそんなことにかかわらず、いや、何もできなくても、無条件で僕に優しくしてくれたあなたを・・・

別に寂しくなんてないです。

いつでも会えることがわかっているので・・・